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平成27年 修正会 2015年01月05日(月)10時00分

平成27年 修正会〔しゅしょうえ〕
        2015(平成27)年1月5日 午前10時~ 於、礼拝堂

学 校 長 法 話
 新年あけましておめでとうございます。
 さて、昨年は、嬉しいことから始まりました。4月2日の硬式野球部の選抜大会初優勝、5月16日に西本願寺の境内に並んで立つ「御影堂」「阿弥陀堂」が国宝に、6月5日第24代即如ご門主がご退任され、翌6日第25代専如ご門主が法統をご継承されました。6月13日に37歳のお誕生日を迎えられた、専如ご門主は、平安中学校・高等学校の卒業生であり、在学中は考古学クラブに所属されておりました。
 硬式野球部は、夏にも甲子園に出場してくれ、春夏連覇の夢を見させてくれました。夢は初戦で覚めてしまいましたが、秋の近畿大会でベスト4の成績をおさめてくれましたので、春の選抜大会連覇という夢はつづきます。常連のフェンシング部・チアダンス部、そして、2年連続の剣道部も全国に駒を進めてくれました。吹奏楽部もマーチングで近畿大会銀賞を受賞し、陸上部も室内陸上で日本ジュニア室内陸上に出場してくれます。また卓球部も17年連続選抜大会出場が決まりました。などなど元気な平安がある一方、いろいろな背景による悩みもたくさんあることも事実です。しかしながら、振り返ってみるとたいへん充実した一年であったように思います。
本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
 それでは今日は、「PHP」昨年11月号に掲載されていた筑波大学教授で精神科医の斎藤環さんの文章の内容をご紹介し、「心の健康の育て方」について考えてみたいと思います。
 日々を健やかに過ごしたいと誰もが願っています。しかし、そもそも「健やか」とか「健康」とは何か、となると答えるのが難しいです。
 医学はこれまで、病気の原因を追及することに汲(きゆう)々(きゆう)としてきました。たとえば感染症の原因は細菌やウィルスですね。ならば、そうした原因を叩けば健康は回復できる。これに限らず、病因をつきとめて取り除くことが伝統的な医学の考え方でした。
 心の病にもこの考え方は応用されました。有名なのは「トラウマ」つまり、(心の傷)でしょう。トラウマの問題を解消することで、こころの問題を改善できる、昔から「病は気から」と申します。これはある程度事実ですが、100%確実なわけでもありません。
 近年、若い世代を中心に、「新型うつ」と呼ばれる問題が広がっています。小さなストレスから無断欠勤したり、医者から診断書を取り何度も休職を繰り返したりする若者です。ストレスが原因とわかってはいても、どんな仕事にもストレスはつきものですから、それを完全になくすというわけにもいきません。メンタルヘルスの問題の多くが、日常的なストレスから生ずるようになった昨今、もはや精神医療も、原因論ばかりでは十分とは言えません。
 医療社会学者A・アントノフスキーは、「SOC(首尾一貫感覚)」に注目されました。
 それでは、SOCとはどんなものなのでしょうか。近年、SOCには三つの要素があると言われています。すなわち「理解可能感」「処理可能感」「有意義感」です。
「理解可能感」(わかる感)とは、自分の置かれている状況を一貫性のあるものとして理解し、説明や予測が可能であるとみなす感覚のことです。実際に、予測や説明が100%可能とは限らなくても、そう「感じられる」ことが大切です。
 「処理可能感」(できる感)とは、少々困難な状況に陥っても、それを解決し、先に進めるだけの能力が自分にはそなわっている、という感覚のことです。問題は、いつも自分一人だけで解決するとは限りません。「どうしようもなければ誰かが助けてくれるだろう」という期待もここに含まれるのです。
 「有意義感」(やるぞ感)とは、今やっていることが、自分の人生にとって意義のあることであり、時間や労力など、一定の犠牲を払うにあたいすることであるという感覚です。必ずしもその「意義」をはっきり説明できなくても構いません。ある種の感情や信念のもとでは、「いずれその意義がはっきりするに違いない」という感覚もまた、「有意義感」に含まれるでしょう。
 おわかりのように、いずれも厳密には根拠のない自信であり、この「世界」に対する、基本的信頼感でもあります。
 SOCが形成される上では、子ども時代の養育環境がとても大きな意味を持ちます。では、不幸な生い立ちゆえに十分なSOCが形成されなかった人はどうしようもないのでしょうか。そんなことはありません。SOCは、生涯にわたり発達し成熟していく感覚とみなされています。つまり日常生活の習慣を少し工夫することでも、SOCを高めることは十分に可能なのです。では、どうすれば、SOCを高めることが出来るかについて考えてみたいと思います。
 まず言えることは、さまざまな状況において、自分自身で判断し、自ら方向性を選択するように意識することです。ただし「なんでも自分で決める」という意味ではありません。積極的に行くか、流れに任せるかの選択も含めて意識的に行なう、という意味です。
 こうした選択の場面では、許容できる範囲のストレスをひきうけてみることも意味があります。ノーストレスの環境はSOCを低下させ、成長を妨げます。自分に可能な範囲をみきわめつつ、積極的に適度なストレスを引き受けていくことは、SOCの向上に大いに貢献するでしょう。
 処理可能感(できる感)については、「記録」が重要になってくると思います。体重を記録するだけでダイエットになるように、自分自身の行動を詳しく記録することは、もっとも簡(かん)便(べん)にやる気を継続する方法です。継続が大変かも知れませんが、長く続けられれば、確実にSOCを高めてくれることでしょう。
 引きこもり問題を見ても、彼らの多くは、SOCが非常に低く、ごく小さなストレスからも、大きなダメージを受けてしまうことが多いのです。彼らの回復過程を見てみると、一つはっきり言えることは、SOCを高めるには人間関係が重要であるということです。
 親密で安定した人間関係は、SOCを構成する三つの要素を、いずれも高めてくれます。困難な状況、理解不可能な状況も、孤立したままでSOCを高めることは難しく、「困った」「大変だ」と言い合える仲間がいるというだけで、乗り越えやすさは、格段に違ってくるでしょう。
 この感覚は、良好な人間関係のもとでこそ、成熟していく可能性を持ちます。心の健康を保つ秘訣は、実は身近な人間関係にあったのです。我々も良好な人間関係を保ちたいものですね。
      龍谷大学付属平安中学校・高等学校 校長 燧土勝徳