学校長式辞
春のお彼岸を目の前にし、校庭の紅梅も見事に花を咲かせ春の訪れを感じる今日の佳き日、龍谷大学付属平安中学校の第69回卒業証書授与式を挙行するにあたり、浄土真宗本願寺派社会部部長 白川了信 様、龍谷大学副学長 池田 勉 様、法人理事・評議員の先生方をはじめ、学園同窓会、親和会・保護者会の役員のみなさま、多数のご来賓のご臨席を賜りましたことに、理事長とともに、衷心より御礼を申し上げます。
また、保護者のみなさま、ご子女の晴の卒業式典にご列席賜りましたことに、祝意ならびに謝意を表します。誠におめでとうございます。
卒業生98名のみなさん、ご卒業おめでとうございます。
それでは、今日のこの日を迎えるにあたり、私が保護者から頂戴しました一通のお手紙を紹介します。
まずは、子どもが3年間お世話になった御礼が丁寧に述べられ、振り返りますと、あっという間のようにも感じられますが、やはり3年という月日がしっかりと流れたようにも感じられます。
中学1年のある日、「学校を辞めたい……」と言われたことがあり、とてもショックだったこと。クラスや友だちに馴染めないのか……。 とはいえ、支えとなってくださったのが担任であり、先生との出会いはとても有り難く幸せなことでした。と、綴られています。
そんな中、中学生活を大きく変える出来事がありました。幼い頃から控え目であった子が、何事にも積極的になり始めたのです。そうするとどうでしょう。気持ちが前向きになると、苦手だったことや大嫌いなものに対する取り組み方が変わってきたではありませんか。
中学2年生になって、どちらかというと苦手な先生が担任になりました。しかし、その先生の教育に対する姿勢や熱意が心を動かしました。今では心の底からその先生に本当にお世話になったと言うようになりました。先生方には感謝の気持ちでいっぱいです。
そして、私が嬉しかったのは、「やはり宗教の授業や宗教行事が子どもの心の成長に大きく関わっている」ということが記されていました。
宗教行事がある日の朝は、いつもより少しきちんと身支度を調えて登校していました。ある朝、そのことについて尋ねてみました。返ってきた答えは、「自分は、何もできていない人間だから、阿弥陀様に会うのに、せめて身だしなみくらいはきれいにしておかないと申し訳ない……」と、ごく自然にこう言いました。
わたしはそんな言葉を聞いて嬉しくなりました。そして、仏の教えとは、何て美しいものなのだろうと思ったのです。自分のいたらなさを認識しておくことは、実はとても難しいことだと思います。でも人が成長していく上で、最も大切なことのようにも思うのです。
なぜなら、自分自身のいたらなさを分かっている謙虚で素直な心があれば、どんな些細なことからも学ぶことが出来ると思うからです。宗教を教えていただいたことは、子どもにとって本当に尊い時間だったと思います。今、社会で起きていることも、政治も、平和について考える時も、先祖や自分自身について振り返る時も、仏の教えをもとに、見たり、聞いたり、より深く考えるようになったと思います。
三年という月日の中で、辛かったこと、嫌だったこと、楽しかったこと、嬉しかったこと、色んな経験をしたと思います。そのどれもが、良い学びとして、誰からもうばわれることのない、決して減ることもない本人の財産となるでしょう。
そして、最後にまた「本当に本当にお世話になりました」と締めくくられているお手紙でありました。
私は目頭を熱くして読ませていただきました。私たちの日常は「すべて他人が悪い」と思い、人の「良さ」や「痛み」に心を向けることなく、自己中心的に暮らしています。「自分は間違っていない、すべて他人が悪い」と思い込んでしまいがちです。
しかし、自他のいのちを見つめ始めれば、自己中心的で傲慢な生き方が、「お陰さま」の中で暮らす柔らかな感謝の暮らしへと変わります。そして、自己を真摯に見つめたとき、お手紙にありましたように、自分自身のいたらなさを知り、素直な心と謙虚な心が芽ばえ、ここに「人」としての成長があるのです。
さて、先週と先々週の二週間にわたり卒業生98人と数分間の面談をいたしました。平安中学の3年間を振り返り、今の気持ちは?という質問をさせてもらいました。全員が申し合わせたかのように、口を揃えて、「楽しかった」「充実していた」「成長できた」「良き仲間に巡り会えた」と言ってくれました。中には「色々あったけど…今となってはいい思い出です」と言う生徒や「三年間迷惑ばかりかけてすいませんでした」といきなり謝る生徒もいました。素直にすいませんと言えることがとても嬉しかったです。
いずれにしましても、満面の笑みを浮かべて「楽しかった」と言ってくれたことが何より、本当に心から嬉しく思いました。ほんの数分ですが、みなさんとのお話は本当に楽しかったです。みなさん一人一人の顔に、満足感や充実感が漲(みなぎ)っていました。私の方から感謝の言葉を言わせてください。「本当にありがとう!」
最後に、このあと、平安高等学校に進まれる人、他校へ進学される人がいますが、どうぞ、龍谷大学付属平安中学校で身につけた、素直な心と謙虚な心を持って高等学校でも頑張ってください。龍谷大平安が涵養したこの「こころ」を基盤にして、未来に羽ばたかれんことを心より念じ、私の式辞といたします。