校長講話
みなさん、おはようございます。
さて、みなさんは、2年ほど前の2015年にテレビドラマ化されました『下町ロケット』という番組をご存知だと思います。原作は、池井戸潤さんという小説家で、流行いたしました「やられたらやり返す、倍返しだ」「10倍返しだ」の半沢直樹シリーズの原作者でもあります。
さて、この『下町ロケット』のモデルといわれていますのは、植松努さんというお方のようです。
植松努さんは、北海道でリサイクルのマグネットを作る会社の社長で全国各地での講演やモデルロケット教室を通じて、人の可能性を奪う言葉である「どーせ無理」を無くし、夢を諦めないことの大切さを伝える活動をしておられます。
植松さんは、北海道でロケット開発に挑戦されており、私たちが直ぐに口にしてしまう「どーせ無理」を根絶したい!という強い思いを持っておられます。その強い思いはどこからきたのかと申しますと…
それは、植松さんのお母さんから教わった「思いは招く」という言葉なのです。これは「思ったらそうなるよ」という意味で、はじめから「どーせ無理」と諦めていては夢なんか実現しません。この「思いは招く」という言葉から、思い続ければ、必ず夢は成し遂げられるということを教わったといいます。
それともう一つは、植松さんのおばあちゃんが教えてくれた「お金は値打ちが変わってしまうもの」という言葉です。
樺太で自動車会社を運営していた植松さんのおばあちゃんですが、突然のソビエト軍侵略により、貯金していたお金が紙くず同然になったといいます。そんなおばあちゃんが努少年に言った言葉がこんな言葉です。「お金は値打ちが変わってしまうもんだよ。だから、くだらないお金があったら、貯金なんかしないで、本を買いなさい。頭に入れなさい。それは、誰にもとられないし、新しいことを 生み出すんだよ。」と教えてくれたそうです。
だから、植松さんは本屋が大好きな子どもになりました。そして、植松さんには大好きなおじいちゃんがいました。そのおじいちゃんとの一番の思い出は、アポロの月着陸です。一緒にテレビを見ていた時、おじいちゃんが見たこともないほど喜んでいる姿を、植松さんは今でも覚えているそうです。「人が月へ行ったぞ」「お前も月行けるぞ」と喜んでる姿です。
だから、いつも本屋に行ったら飛行機ロケットの本を手に取ったそうです。そしたら、おじいちゃんはでっかい手で頭をなぜてくれ、ほめてくれたといいます。きっと、植松さんはおじいちゃんの笑顔が見たくて、飛行機、ロケットが好きになったんだろうと思います。
植松さんが中学生になった頃の夢は、飛行機やロケットの仕事をすることになっていたということです。しかし、中学校の先生からは「そんな夢みたいなことを言ってないで、テスト勉強をしなさい」と言われます。さらに先生は、「そもそも宇宙なんちゅうものはよほど頭が良くないと無理だ。すごくお金がかかるんだぞ。だからそれは別世界の話だ。お前なんかにできるわけがない」とも言われたそうで、とても悲しくなったと振り返っておられます。
そして、考えたのが…
「夢ってなんだろう?」できそうな夢しか見ちゃダメなんだろうか?
でも、「できるかできないかはいったい誰が決めるんだろう」「やってみなきゃわからないはずなのに、やったこともない人が決めるのは、変じゃないのか」「今できないことを追いかけることが、夢っていうんじゃないのか」と思ったそうです。
そして、植松さんは、一生懸命自分の大好きなことを追いかけます。その結果、それはまわりの人に理解されなくなりました。友達からも先生からも、そして、親からも「そんなことしてて大丈夫なのか?」と言われ、いつも、「意味なくねえか?」「何それ、自慢?」って言われて、どんどん一人ぼっちになっていったそうです。ついに、自分の好きなことをひとに喋ることができなくなってしまいました。
でも、そんな植松さんを助けてくれた人たちがいました。その人たちは本の中の人たちです。助けてくれたのは、ライト兄弟だったり、エジソンだったり、彼らもまた誰にも信じてもらえない人たちで応援もしてもらえなかった人たちでした。でも、彼らは一生懸命がんばったんです。そして、その人たちが植松さんを助けてくれました。
だから、がんばれたんですと植松さんは言います。自分の好きなことをもっと好きになり、もっと伸ばしていったんです。そして、紙切りが得意だった植松さんは、それがどんどん発展していって、どんどん物がつくれるようになって、そして、ついに自分の会社をつくってリサイクルのマグネットをつくることができるようになります。
植松さんが、お母さんから教わった「思いは招く」という言葉、おばあちゃんから教わった「お金は値打ちが変わってしまうもの。だから、本を買いなさい。頭に入れなさい。それは、誰にもとられないし、新しいことを 生み出すんだよ」という言葉を懐に抱き、多くの苦難を乗り越え、今の植松さんがあります。
今、植松さんは、この日本から「どーせ無理」という諦めの言葉がなくなることを願いつつ、もし、みなさんが「どーせ無理」という言葉に出会ってしまったときには、「だったらこうしてみたら?」って言って欲しい、と言い続けておられます。
そして、友達に「これをやってみたいんだよね」と言われたら「だったらこうしてみたら?」「こういう本を知ってるよ!」「こう言う失敗をしたことがあるからこっちの方がいいよ!」と応えてくれたら、ただそれだけでいつか「どーせ無理」がなくなって、この世からいじめも虐待もなくなるんです。と植松さんは講演で話されています。
友だちに、「これをやってみたいんだよね」と言われたら、「だったらこうしてみたら?」こんな会話が世の中に溢れることこそ、相手を思いやり、トゲのある言葉ではなく優しい言葉が飛び交う社会でありたいと願う、本校の『建学の精神』が教えるところであります。それが私たちの自己中心的な見方を変えていくことになるのです。つまり、相手の悲しみや痛みが自分の悲しみや痛みと感じることができる他人への思いやりの心が育まれ、こうした生き方を心がけることが、いのちを磨くことに繋がっているのです。
毎週一回行われます龍谷大平安での仏参で「南無阿弥陀仏」とお念仏することは、阿弥陀さまのご本願を鏡として自分を照らしてみる、つまり、仏さまの鏡に照らして、今の自分を見つめてみる大切な時間です。
こうしてご本尊に向かい、私たちが阿弥陀さまのお慈悲に出遇い気づかせていただくことによって、心を磨いているのです。
みなさんには、ありのままの自分を見つめ心を磨いて欲しい、それが、いただいているいのち・願われているいのち・支えられているいのちを磨き輝かせることになるのだということをお話ししまして本日の仏参のお話を終わります。