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平成24(2012)年度 終業式(高1) 式辞 2013年03月21日(木)15時00分

平成24(2012)年度 龍谷大学付属平安高等学校 高校1年生 後期終業式

学校長式辞

 今年度、最後の私の式辞は、このお話から始めます。と言いますのは、今年は、昨日3月20日の春分の日を中心に1週間のこの時期を何と言いますか?答えは、お彼岸です。このお彼岸は、我々日本人の心に根付いている心温まる意識です。「暑さ寒さも彼岸(ひがん)まで」と言いますが、秋も秋分の日を中心に同じく1週間を秋のお彼岸と言います。
 彼岸は仏典に出てくる言葉で、パーラミターというインド語を訳したものです。彼岸とは到彼岸(とうひがん)の略で、迷いの世界(この世)から悟りの世界に到るということです。この迷いの世界を此岸(しがん)といい、如来の悟りの世界を彼岸と名付けています。
 宗祖親鸞聖人は「人みなこの此岸、つまり人間世界から彼岸への途を歩まねばならない」と申されています。
 此岸から彼岸へのこの道は阿弥陀如来ご回向(えこう)の道であります。浄土への道は実は浄土からの呼びかけの道であります。彼岸会はインド、中国にはなく日本独特の法会です。真宗では彼岸の1週間を仏徳(ぶっとく)を讃嘆(さんだん)する場として、また聞法(もんぼう)のご縁の場として大切にしています。苦悩の世界(此岸)に沈んで久しい私達は、阿弥陀様の願いによって救われるのであります(彼岸)。

 それでは、今年度の終わりに当たり、3月1日に挙行いたしました高校卒業証書授与式の式辞の内容でもありますが、「EQのおさらい」をしたいと思います。
 EQすなわち「こころの知能指数」とは、何でしたか?それは、知能テストで測定されるIQとは質の異なる頭の良さです。自分の本当の気持ちを自覚し尊重して、心から納得できる決断を下す能力。衝動を自制し、不安や怒りのようなストレスのもとになる感情を制御する能力。目標の追求に挫折したときでも楽観を捨てず、自分自身を励ます能力。他人の気持ちを感じとる共感能力。集団の中で調和を保ち、協力しあう社会的能力、というような「情動の自己認識」がEQの根幹であります。実は、このような思いやり、自制、協力、調和を重んずる価値観は、われわれ日本人の本質とも言えるのです。科学技術が発達し、すべてのことが自分の思い通りになると錯覚してしまいがちな現代にこそ、IQのように数字では表せないEQ「こころの知性」の大切さを知って欲しかったのです。自分自身の感情や他人との関係をうまく処理する能力こそ、人生を最終的に大きく左右する知性であるからです。

 現代社会は非常に不安定な社会で、さらに、青少年にかけられているプレッシャーも非常に大きいと思います。だから、親切や思いやりの教育が必要なのです。EQという言葉を通して「こころの知性」の大切さを日々申してきました。龍谷大平安がみなさんに期待するものは、「人間力向上」と「学力向上」の両立です。これは『建学の精神』に謳われているのです。

 それでは、なぜ、EQ「こころの知性」を磨く必要があるのか?これも「EQのおさらい」です。これから、三つのキーワード「不安」「希望」「楽観」を使ってお話しします。

 「不安」は知性を阻害する、と言われています。たとえば航空交通管制官のように強いプレッシャーのかかる高度な知的激務の場合、慢性的に不安の強い人間は、まず例外なく訓練段階か現場に出たあとで失敗を起こすらしいです。航空交通管制官をめざして訓練中の1790人を調査した結果によると、不安の強い人間は知能テストの成績が良くても失敗を起こす確率が高いのです。
 不安は、学業成績にも全般にわたって悪影響をもたらすと言われています。いろいろの研究成果を総合してみても、不安にとりつかれやすい人間ほど学業成績が悪いという傾向が出ています。不安が強すぎるタイプにとっては、テスト前の不安は思考や記憶を妨げる原因となり、テスト中の不安は明晰な頭脳の働きを妨げる要因となるのです。
 全く逆の発想からいうと「希望の力」と言うことになりましょう。これが二つ目のキーワードです。ある研究からその心理学者は、次のように解説しています。「希望を持ちつづける能力の高い学生は自分自身に高めの目標をおき、しかも一所懸命努力してその目標を達成する力がある。知能が同じなら、学校の成績を決めるのは希望の力だ」とし、「目標が何であろうと、目標達成に必要な意志と手段が自分に備わっていると信じること」であると定義しています。この希望を持ちつづける能力の高い人たちに共通の特徴として、自分自身に動機づけができること、目的達成の方法を見つける才能が自分にあると感じていること、困難な状況に陥っても事態がやがて好転するにちがいないと自分を元気づけられること、目標に到達するために別の方法を考えたり達成不能になった目標そのものを変更したりする柔軟性があること、大きすぎる目標を処理可能な小さな目標に切り替えるセンスをもっていること、などがあげられています。
 「EQ」の観点から言いますと、「希望を持ちつづける」とは、難しい問題に直面したり失敗したとき不安に負けないこと、敗北感に陥らないこと、沈み込んだりしないこと、などです。実際、希望を持ちつづけられる人は目標めざしてがんばっているときに、落ち込むケースがほとんどありませんし、全般的に不安や精神的ストレスもほとんどありません。

 また、三つ目のキーワードである「楽観」も希望と同じで、失敗や挫折があっても最後はうまくいくだろうという強い期待を維持できる能力です。「EQ」の観点からいうと、楽観とは、困難に直面したときに無気力や絶望感に陥らないよう自分を守る態勢を意味します。そして、希望と同じように、楽観は人生に恩恵をもたらしてくれるのです。楽観や希望の根源にあるのは、心理学では「自己効力感」といい、つまり、自分は自分の人生をしっかり理解できている、難しい問題にも対応できる、という自信です。何であれ得意な分野ができるとその人の自信に繋がり、より大きな目標めざして冒険したり挑戦したりする意欲がでます。そのようにして難局を乗り切ると、それがまた自信感を強化します。その自信によって人間は自分の持っている才能を最大限に生かすことができ、自分の才能を伸ばす努力ができるようになるのです。
 というように、色々お話しいたしましたが、ここにお話ししましたことは全て、こころの問題で、こころの有り様(よう)をどうもっていくかということにかかっています。だから、EQ「こころの知性」を磨く必要性があるのだ、ということになりましょう。「こころの知性」を磨くことは、日々の生活の中で絶対に必要なことです。

 最後に、4月から高校2年生になりますが、自分の将来を見据えての大事な一年間にしてください。そして、しっかりと学業に励み、クラブ活動でも、しっかりと先輩を支えて頑張ってください。ある面で、君たちに期待される部分は本当に大きいということをしっかりと自覚して新年度に向けてくれることを、心より願いまして私の式辞といたします。