本日は4限目に、講堂にて成道会を勤めました。そして、浄土真宗本願寺布教使の渡辺雅俊先生のご法話をいただきました。
成道会はお釈迦さまが悟りを開かれたことを記念する行事であり、渡辺先生はお釈迦さまが悟られるまでの経緯をお話されました。お釈迦さまは王子として生まれたときから、何不自由なく過ごされていましたが、「本当の幸せにはつながっていかない。やがていのちを終えなければならないから」と国王となる地位を望まれず、王子の身分も捨ててお城を出られます。苦しい修行をされ、お釈迦さまが菩提樹の下で瞑想されていると、心の悪魔がやってきます。心の悪魔とは、心の中で湧き上がってくる「煩悩」のことです。渡辺先生は「敵は本能寺にありという言葉がありますが、外に敵を見ていくのではなく、私の中にある敵、つまり煩悩です」と述べられした。お釈迦さまはあらゆる煩悩に打ち克って悟りを開かれましたが、同じく厳しい修行に励まれた親鸞聖人は断念されました。そして、法然上人のもとで、煩悩に打ち克つことができないということをわかっておられる阿弥陀さまのみ教えに出遇われたのでした。
続いて、渡辺先生は3人の人物を紹介されました。
1人目は、女子カーリングの吉田知那美選手(北京オリンピックで銀メダルを獲得)です。吉田選手がインタビューで発した「弱いところを出し合って、お互い弱い部分を支えながら戦った」という言葉に、渡辺先生は「安心して弱いところを出せるチームの状況が素晴らしい」と述べつつ、「皆さんのクラスはどんな感じですか?」と、生徒たちに投げかけられました。そして、阿弥陀さまの前でも、弱い部分を隠す必要はなく、そんな弱い私を見捨てずにはおれない仏さまであることを示されました。
2人目は、今年11月に亡くなられた詩人の谷川俊太郎さんです。読者から寄せられた質問を受けるという企画があり、そこであるお母さんから次のような質問がありました。
「娘(6歳のさえちゃん)どうして人間は死ぬの? さえちゃんは死にたくないよと聞くんです。どういう言葉で返したらいいかわかりません。」
その質問に対して、谷川さんは「もし僕がお母さんだったら、お母さんも死にたくないよと言って、ぎゅっと抱きしめ、そのあと一緒にお茶をします。言葉で問われた質問に、いつでも言葉で答える必要はないの。このように深い問いかけには、頭だけじゃなくて心や体を使って答えなきゃね」と。
人間は感情で生きているから、深い問いに出会ったとき、どんな理屈や言葉を並べても、その相手には直接響いていかない。詩人である谷川さんはそのことを理解され、相手を抱きしめるかのようにして包み込んでいくような接し方も大事なのだと教えてくださっていると、渡辺先生は推察されました。そして、渡辺先生は阿弥陀さまに重ねて「どんな言葉や理屈を並べても、その時不安で冷え切った私の心を温めることできません。阿弥陀さまは、言葉や理屈で説き伏せようとするのではなくて、南無阿弥陀仏という響きで私のいのちを抱きしめるかのようにご一緒してくださるのです」と付け加えられました。
3人目は、サヘル・ローズさん(イラン出身で俳優タレントとして活躍)です。イラん・イラク戦争があった時代、国境近くに住んでいたサヘルさんは、4歳の時に家族が離散。救助隊に助けられた後は、孤児院で生活をしていましたが、1日一食、着ている服もお下がりでした。それでも、サヘルさんは安心して寝る場所があることに喜びを感じていました。7歳の時、テヘラン大学の大学院生だったフローラ・ジャスミンさんの養子となり、後に日本へ渡りました。サヘルさんは「フローラ・ジャスミンが私をじっと見つめてくれて、彼女の瞳の中に私の姿が映ったのを見たとき、とても嬉しかった」と話されています。渡辺先生は、サヘルさんの講演を実際聞かれことで、「私たち人間の一番の恐れは、孤独かもしれません。誰にも見てもらえない、誰にも相手にされていないんじゃなかろうか」と思われました。
「阿弥陀様さまは、いま私のいのちを抱きしめてくださっているのと同時に、あなたのことを決して一人にはしません。何か失敗したり、うまくいかないことがあるかもしれない。どんな状況にあろうとも、私のことを支えてくれる人、見つめてくれる人がきっといるはずです。うまくいかないときも、つらいときも、その喜びを見出していけるような視点を、この学校で学びながら生活していってほしい」と、生徒たちへメッセージを伝えられました。