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仏参講話【10月】 2014年10月10日(金)08時53分

2014年10月 仏参講話[学校長]

 みなさん、おはようございます。
 ちょうど約1年前の2013年9月7日、2020年のオリンピックが東京で開催されることに決まりました。その際、本校出身の太田雄貴君も招致アンバサダー・オリンピアンとして、立派なプレゼンを披露してくれました。
 その時、一時、流行語となったのが、招致"Cool Tokyo"アンバサダーの滝川クリステルさんのプレゼンで冒頭に述べられた『おもてなし』という言葉です。滝川クリステルさんのプレゼンはこのように始まりました。
 「東京は皆さまをユニークにお迎えいたします。日本語ではそれを『おもてなし』という言葉で表現いたします。それは、見返りを求めないホスピタリティの精神。それは先祖代々受け継がれながら、現代の日本の文化にも深く根付いています。『おもてなし』という言葉は、いかに日本人が互いに助けあい、お迎えするお客様のことを大切にするかを示しています。」という内容でありました。
 『おもてなし』は、「もてなす」の丁寧語で言葉の通り、「客をもてなす」の「もてなす」からきています。「もてなす」の語源とは、「モノを持って成し遂げる」からきており、お客様に応対する扱い・待遇のことを指します。ここでいう「モノ」とは、目に見えるモノと目に見えないモノの2つを示します。
また、「表裏無し」という、これも字の如く、表裏がない心でお客様を迎えるということです。この2つが合わさって、一般的に『おもてなし』の語源とされています。
 それでは、PHPという雑誌に掲載されていました神経科学者である金井良太さんの文章を紹介し、科学から見た『おもてなし』について、少し考えてみましょう。
 金井さんは『おもてなし』は、人間だけが持つ特別な心です。他者を思いやる気持ちや、日本人特有の『おもてなし』精神について、科学の視点から考えてみるとさまざまなことが見えてきたとおっしゃっています。
 人間には他人の気持ちを感じ取るという素晴らしい能力が備わっています。微妙な表情や仕草や、声のトーンなどから、相手の気持ちを読み取ることで、人と人とのコミュニケーションは成り立っています。メールなどの文字だけの言葉は、複雑な情報を遠くの人へ伝えるのには役立ちますが、心の内で感じていることを共有することはできません。だから、文字だけのコミュニケーションでは、相手が何を本当は感じているのかわからずに不安になったりもします。
 人間がどのようにして他者の感情を読み取って共感するのかという仕組みを脳科学の視点から見てみましょう。脳の話になると、頭の良さや記憶力や集中力などの能力に注目しがちですが、人間の脳の本当にすごいところは、他人の気持ちを感じ取り、他人の幸せまで考えてあげることができるところです。脳の研究をすると、人間の脳は、他者と共存していくため進化してきたことに気付かされます。
 たとえば、脳の中には「顔」に反応する場所がたくさんあります。人間の脳が進化する過程で、顔から得られる情報が重要だったからです。顔を見ることで、その人の心理状態から性格まで、私たちは実にたくさんのことを読み取っています。誰であるかを識別するだけでなく、年齢や性別を推測したり、心理状態を読み取ったりと、顔から得られる情報は多種多様であります。
 普段意識することはありませんが、私たちの脳は、周囲の人の微細な表情や仕草の意味を読み取っています。まるで気温を肌で感じるかのように、意識することなく自然にそうしています。当然、複雑な状況では、相手の置かれた状況をしっかりと考えることで、他者の心の動きを理解することもあります。しかし、日常的には、他人の感情について考えているというよりは、もっと些細なことから自然に感じ取っているのです。
 無意識のうちに他者から読み取った感情は自分にも伝わっています。イライラした気分なんかは、言葉にしなくても、声や態度に出てしまいます。そうすると、嫌味を言い合うまでもなく、お互いに嫌な気分になっていたりします。逆に、楽しい気分も伝わりますから、自分の身の回りの人を楽しませてあげれば、それが自分に返ってきます。だから、楽しい人の周りには、自然と人が集まってきますし、逆に、孤独で不平ばかりを言っている人は、周りから嫌がられ、ますます孤独に陥ってしまうことになります。
 人間は、他人と関わり合う社会という特殊な環境の中で進化を遂げました。他者の顔を認識したり、表情や顔色を伺ったりといった、社会的な機能を高度に発展させたその結果に、現代の人間の脳があります。他人を思いやったり、感情を読み取ったりする心は、人類に共通する脳の特徴なのです。
 だから、『おもてなし』は、人類にとってみんなに共通する行為なのだと思います。他人の気持ちや状態を正しく認識する能力や、相手を喜ばせたいと思う気持ちは、万国共通の本能です。そして、人にもてなされて幸せだと感じることができるのは、そのような行為が、自発的な他者を思いやる心からきているからでしょう。そこに心温まる人とのコミュニケーションが生まれるのです。
 それでは最後に『おもてなし』の心得ポイントを二つ紹介しておきましょう。
 例えばレストランでウェイターがおしぼりを持ってくることであったり、旅館で布団の準備がされていることなどは「サービス」と呼ばれます。しかし、おしぼりを渡すときに「お仕事お疲れ様です」という言葉掛けをしたり、敷かれた布団の横に「ゆっくりとお休みなさいませ」と一言書いたメモを添えたりすることは『おもてなし』と呼ばれます。
 つまり、お客様にとって想定内のことはサービスでしか無く、お客様の期待をいい意味で裏切るような気遣い想定外の気遣いこそが『おもてなし』とされるのです。
おもてなしは、相手のことを慮る気持ちから生まれるものです。
 もうひとつは、滝川クリステルさんのプレゼンにもありましたように「見返りを求めないホスピタリティの精神」つまり、思いやりの精神です。
 外国では、レストランなどで接客を受けるとチップを支払いますよね。あのチップは、接客してくれた店員のサービス料として任意ではありますが支払っているわけです。一方、日本ではどうでしょう。高級レストラン・ホテルからコンビニまで、程度の差はあるにせよ、店員は無償で同じお客様として丁寧な扱いをしてくれます。
 つまり、見返りを求めず、相手を敬い丁寧に扱うことが出来るのは日本人の良いところであり、これこそが『おもてなし』と言えます。ビジネスの世界だけでなく日常生活において、見返りを求めず相手を敬い丁寧に接することは、正に『おもてなし』であります。
 こうしてお話してきました『おもてなし』という精神、『おもてなし』の心とは、さて、どうでしょう。
「相手を思いやる優しい心をつくろう」というのが、実は私がみなさんに常々言っているEQではありませんか。みなさんに自分自身でしっかりと磨きなさいと言っている『こころの知性』ではありませんか。
龍谷大平安で、しっかりと『おもてなし』の心を磨いてください。